9/21/2011

神経管形成

神経板誘導(GA3wはじめ)


神経管が出来る過程を神経管形成(neurulation)といい、胎生第4週に完成。

中枢神経系は、胎生第3週(day18)に原始窩の前方、正中背側に神経板ができることにより発生が始まる。脊索(中胚葉性)の誘導によって胚性外胚葉が肥厚して神経外胚葉となる(神経誘導)。この厚い板状の外胚葉を神経板といい、神経板は最初単層神経上皮細胞で構成されるが、神経管が形成される頃には多層となっていく。

神経誘導に部位特異性を与える分子機構
外胚葉を表皮に分化させるBMP4が原始結節、脊索のノギン、コルジン、フォリスタチンによって不活性化される


この神経板は正中部が陥凹して神経溝となり、その両側の部分は隆起して神経ヒダとなる。神経ヒダは特にその頭側で大きくなっている。神経溝は外側壁が中央で癒合して神経管となり、残りの胚性外胚葉から分かれる。残りの胚性外胚葉は体表外胚葉になる。

脊索による神経誘導が行われない場所ではBMP4の働きによって表皮に分化する。

脊索と神経板の長さは、はじめ一致しているが脊索が脊索前板を超えて伸長できないのに対し、神経板はそれが可能であるため、神経板は脊索を超えて頭側に広がる。
神経板はやがて吻側が脳管となり、最終的には脳となる。尾側は脊髄管となって最終的に脊髄となる。
脊索は脊髄管全長と脳管後半の腹側に位置する。脳管は前半部が終脳と間脳となり、後半部が中脳と菱脳が分化する。

神経ヒダ

神経板の左右外側壁の細胞分裂は特に盛んで、神経ヒダと呼ばれる。
神経板の正中部は次第に凹み、神経溝と呼ばれるようになる。

胎生第4週(day22)、左右の神経ヒダが癒合し、神経管が形成される。この神経管が出来る過程を神経管形成(neurulation)という。
神経ヒダの癒合は、将来の脳と脊髄との移行部付近(神経溝全体の中央)から始まり、頭側、尾側に向かって進む。⇔ 第4体節域から始まる

神経管閉鎖は胎生第3~4週、第47体節レベルから始まり、頭側、尾側へ進行する。

神経管形成

GA4(day22ころ)左右の神経ヒダが癒合し、神経管が形成される ←神経管形成
神経ヒダの癒合は第4体節域(将来の脳脊髄移行部)で始まる
神経管閉鎖は胎生第3~4週、第47体節レベルから始まり、頭側、尾側へ進行する。

神経管の頭側、尾側は開いたままであり、前神経孔(anterior neuropore),後神経孔(posterior neuropore)と呼ばれる
形成初期の神経管腔は前神経孔と後神経孔で羊膜腔に開口する
GA4wまでに閉鎖する
前神経孔閉鎖:胎生25日(23~26)
後神経孔閉鎖:胎生27日(26~30)
神経管閉鎖により、神経管は閉鎖性の環状構造物となる
☞神経管閉鎖不全により生じる中枢神経系奇形を神経管閉鎖不全症(dysraphism)と総称される
前神経孔が閉鎖し、将来的に終板(lamina terminalis)にな
終板は間脳蓋板から視交叉まで
終板は左右の大脳半球を連絡する ☞交連線維の通路
終板は透明中隔も形成
後神経孔の閉鎖は頭側から尾側へ進み、第2仙椎の高さ(31番目の体節の高さ)で終わる ☞後神経孔は将来の第2仙椎に一致する
神経管:分裂の盛んな多列円柱の神経上皮細胞(神経外胚葉細胞)からなり、のちに3層に分化する

8/23/2011

後頭蓋窩


後頭蓋窩とは、頭蓋内空間の一部分を指し、大後頭孔から小脳テントまでの部分をいう。頭蓋の中では、最も下方に位置する窩で、小脳、延髄、橋を含んでいる。小児では、脳腫瘍や奇形が後頭蓋窩に起こることが多く、小児脳神経外科医にとっては重要な部位といえる。



鑑別すべき腫瘤性病変

成人
単一病変
1.経験則として、成人後頭蓋窩に発生する充実性病変の鑑別診断は、他の診断が確定するまで第一の鑑別として転移性腫瘍、第二に転移性腫瘍、第三に転移性腫瘍である。
2.血管芽腫:成人後頭蓋窩に発生する原発性髄内腫瘍では最大の頻度を示す(後頭蓋窩脳腫瘍の7-12%)。
3.毛様細胞性星細胞腫:充実性あるいはのう胞性で、若年成人に多い傾向がある。
4.脳幹神経膠腫:成人では比較的まれ。
5.膿瘍
6.海綿状血管腫
7.出血
8.梗塞

複数病変
1.転移性腫瘍
2.血管芽腫
3.膿瘍
4.海綿状血管腫

小児
4種類の腫瘍が18歳以下のテント下脳腫瘍の95%を占める。上位3種の発生頻度は同じ。
1.PNET(髄芽腫を含む)27%:多くの場合第4脳室屋根から発生、ほとんどが充実性。
2.小脳星細胞腫 27%:小脳半球から発生。
3.脳幹神経膠腫 28%:
4.上衣腫
5.脈絡叢乳頭腫
6.転移性腫瘍:神経芽腫、横紋筋肉腫、Wilms腫瘍


8/02/2011

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍とは、原始胚細胞という細胞群が腫瘍性(からだの中で秩序なく増えていく性質)を獲得し、どんどん大きくなっていき、塊をつくってしまったものです。本来生殖器(精巣、卵巣)に発生する腫瘍群の総称で、なぜその腫瘍群が頭蓋内に発生するかはまだ分かっていません。

頭蓋内胚細胞腫瘍とは、5,6歳から思春期ぐらいのこども達におこる、どちらかというと男の子に多い病気です。神経下垂体部や松果体という脳の真ん中にある構造物付近に多く生じます。神経下垂体部病変では、ホルモンの異常により成長障害や尿崩症の症状でみつかったり、腫瘍の圧迫や浸潤により視力・視野障害などが出現したりします。松果体の病変では、水頭症や頭蓋内圧亢進症状から診断に至ることがあります。診断時に複数の病変や脊髄への播種を認めることもあります。日本での発生頻度を見てみると、全脳腫瘍の約3%で、5歳から19歳までの間にほぼ65%が集中しています。診断時の平均年齢は18歳前後と報告されていて、4歳以下や30歳以上の人たちにこの腫瘍群が発生することは稀です。また、男性に圧倒的に多く発生しますが、この理由もまだ分かっていません。

尿崩症(にょうほうしょう):尿中へ水分の排泄を調節する抗利尿ホルモンというホルモの異常により多尿となり、その結果摂取する水分が増える(多飲多尿)

水頭症(すいとうしょう):脳や脊髄の周りを循環する脳脊髄液が何らかの原因により異常に貯留し、脳室が拡大、過去あるいは現在において頭蓋内圧亢進を呈した病態

頭蓋内圧亢進(ずがい ないあつこうしん):頭蓋骨で囲まれた、脳が入っている空間の圧力が何らかの影響で上昇し、その結果脳に影響を及ぼすこと

6/21/2011

課題

小児脳腫瘍の抱える問題点

・ 小児の固形がんの中では最も発生頻度が高く、かつ死亡率の高い疾患である
・ 小児悪性腫瘍による死亡の最大の原因は脳腫瘍である
・ 治療法の選択が極めて難しい
・ 日本においては,少ない症例が多くの施設に分散することで、治療水準の向上を妨げている
・ 高度な治療のできる施設が限られており、それらの施設でも十分な治癒実績が得られていない
・ 施設によって受けられる治療に大きな格差が生じている
・ 高度な機能を持つ脳に対する治療の結果、救命できても重い障害が残ることが多い
・ 成人後も継続する治療の経済的負担が大きい
・ 障害により、成人後の自立が難しい
・ 乳幼児・学童・生徒に長期の治療を行うため、保育や教育の現場での配慮が必要になる
・ 入学・復学がうまく行かない
・ 知能低下、機能低下、体調不良などにより学校生活にうまく適応できない
・ 発達期の子どもに対する心理的な影響が大きい

上に挙げたように、小児悪性腫瘍、特に脳腫瘍が抱える課題は 枚挙にいとまがない。医学的な課題、社会的な課題、行政的な課題など、現在それぞれの専門家が地道に解決策を模索している。そのなかでも、拠点となる病院、センターとしての病院への集約化は、知識、技術、know-howの蓄積という意味では課題解決のための最大の試金石になる可能性がある。

6/10/2011

種類と発生部位

小児脳腫瘍の中には多くの種類の腫瘍が含まれますが、発生頻度の高いものとして星細胞腫、胚細胞腫瘍、髄芽腫、上衣腫、頭蓋咽頭腫が挙げられます。これらの腫瘍で小児脳腫瘍全体の約65%を占めると報告されています。2009年版全国脳腫瘍集計調査報告によると、発生頻度は星細胞腫 18.6%、髄芽腫 12.0%、胚種 9.4%となっています。
発生部位の特徴として、天幕下や正中線上に発生することが多いことが知られています。つまり生命中枢や神経内分泌中枢の近くに発生します。後頭蓋窩に発生する脳幹神経膠腫、髄芽腫、上衣腫などは前者の代表例ですし、神経下垂体部胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、視神経神経膠腫などは後者の代表です。このため、手術による腫瘍摘出が制限されたり、放射線治療の範囲や照射量などにも制限が出てきます。
また、もう一つの特徴として、脳脊髄液の流路に接して発生するという特徴を有しています。これは、腫瘍が大きくなるにつれて脳脊髄液が流れにくくなったり、完全に流れなくなったりすることがあり、水頭症の原因となります。

6/03/2011

発生頻度 ー 小児脳腫瘍をもっと詳しく知りたいあなたのために

脳腫瘍を俯瞰すると全年齢にわたり発生しているが、その本質は成人の腫瘍であり、小児発生例は全脳腫瘍の8%に過ぎない。しかし、視点を変えて小児がんの側から脳腫瘍を眺めてみると、小児脳腫瘍は白血病に次いで発生頻度が高く、小児期に発生する固形腫瘍の中では最も頻度が高い重要 な疾患といえる。日本脳腫瘍全国集計によれば成人を含めた脳腫瘍の発生頻度は、人口10万人に対して12.8人、小児に発生する頻度は7.8%と報告されている。全原発性脳腫瘍の11.1%を占める 。

4/19/2011

発生頻度



こども達の中枢神経系に発生する腫瘍は、小児悪性腫瘍全体の20-25%を占めると報告されています。白血病についで2番目に多く、固形腫瘍だけを考えると最も発生頻度の高い腫瘍群です。アメリカでは、毎年約1500 ~ 2000人のこども達に脳腫瘍が発生すると言われています。つまり小児人口10万人あたり、年間約4人の脳腫瘍患児が発生していることになります。一方、本邦では日本脳腫瘍全国集計によれば成人を含めた脳腫瘍の発生頻度は、人口10万人に対して12.8人、そのうち15歳未満の小児に発生する頻度は7.8%といわれています。

4/15/2011

小児脳腫瘍とは - 小児脳腫瘍をもっと詳しく知りたいあなたのために -

小児の中枢神経系に発生する腫瘍は、小児がんの中では白血病についで二番目に多く、固形腫瘍に限ると最大の発生頻度を示す腫瘍である。アメリカでは、年間およそ15002000人の小児脳腫瘍患者が発生していると報告されている。白血病をはじめとする小児がんの治療成績が向上している近年の小児がん医療においても、小児脳腫瘍のそれは依然として満足できるものとは言えず、小児がんの中では最大の死亡原因となっている。とはいえ、近年の神経放射線検査の技術向上、それに伴う早期診断や治療への応用、腫瘍摘出術、化学療法、放射線治療を中心とした集学的治療によって、小児脳腫瘍患児の中にも長期にわたり生存しているこども達も増えている。

4/12/2011

小児脳腫瘍とは

脳腫瘍とは、脳組織の中に正常とは異なる細胞が増殖してできる腫瘍の総称です。良性から悪性のものまで様々な種類があり、それぞれの腫瘍によって治療方針や予後が異なります。また、脳腫瘍はこどもから大人まであらゆる年齢に発生しますが、15歳未満のこども達に発生する脳腫瘍を小児脳腫瘍と呼びます。
小児脳腫瘍とは、ただ単に脳腫瘍がこどもの脳にできたという問題ではなく、大人の脳腫瘍とは異なった考え方や、こども達の発育・発達にあわせた治療に対する考え方が必要となります。そのため、脳神経外科医、神経腫瘍科医、放射線治療医、看護師をはじめとする医療スタッフや家族、学校、地域といった患児を取り巻く社会が密に連携してこども達の治療に関わることが重要です。